「超広域巨大災害」南海トラフ地震に、どう向き合うのか?

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想家工房ブログ
南海トラフ


国難ともいえる「超広域巨大災害」南海トラフ地震に、私たちはどう向き合うのか



2025年3月31日、国が新たに公表した南海トラフ巨大地震の被害想定は、約10年間にわたる国の減災努力が、未だ道半ばであるという厳しい現実を突きつけた。

これは単なる数字の見直しではない。列島全体に影響を及ぼす「国難」とも呼べる災害への警鐘であり、今後私たちがどのように備え、行動すべきかを問い直す重要な局面に立っていることを意味する。





止まらない災害リスク、進まない耐震化


社会基盤――電気、ガス、通信、水道、道路、港湾――すべてのインフラが危機に晒されている。

とりわけライフラインの復旧にかかる時間の長期化が懸念されており、特に上下水道は復旧に1~2カ月を要する可能性がある。

断水は最大で3690万人に及び、下水道の使用不能者数も3570万人に上る。


これは単に不便というレベルの話ではない。被災後の感染症リスク、生活環境の悪化、高齢者や障害者など災害弱者の命に関わる重大な事態を引き起こす。

にもかかわらず、全国の下水処理場の耐震化率は2023年度末で5割程度にとどまり、主要上水道管の耐震適合率も4割程度という現状だ。


なぜ対策が進まないのか。理由は多岐にわたる。国の予算制約、地方自治体の慢性的な人手不足、優先順位の迷走、そして市民の「自分ごと化」の不足などが絡み合い、防災・減災対策は「待ったなし」であるにも関わらず、現場では足踏みが続いている。



減らせなかった死者数、進まぬ住宅対策


南海トラフ地震によって想定される死者数は、最悪のケースで30万人を超えるとされていた。政府はこれを8割削減するという目標を掲げたが、今回の新たな想定では津波による死者数が依然として21万5千人にのぼる。これは、住民のうち「早期に避難する人」を2割と仮定した場合の数値である。逆に言えば、7割の住民が迅速に避難すれば、死者数は9万4千人まで減少できるという試算もある。

この「意識の違い」が生死を分ける。自治体や行政がどれほど準備をしても、最後は一人ひとりの行動が大きな分かれ道となることを示している。


住宅の耐震化もまた、死者数に大きく関与する。

2023年の時点で住宅の耐震化率は90%に達したが、08年の79%からの上昇に10年以上かかっており、高齢者世帯など経済的に困難な家庭では改修が進みにくい現状が続いている。また、地方では人口減少に伴い、古い住宅の建て替えが進まず、市街地全体が「耐震脆弱なゾーン」となっているケースもある。


政府は当初、2025年までに耐震性が不十分な住宅を「おおむねなくす」としていたが、この目標も達成が困難となり、5年後ろ倒しとなった。



木造密集地の火災リスク、対策進捗はわずか


都市部に多い木造住宅密集地では、地震による火災が一気に広がるリスクが高い。政府は2020年度までにこの問題を全国的に解消することを目標に掲げていたが、2024年3月の時点で進捗率は61%にとどまる。

古くからの住民が多く、土地や建物に関する合意形成が難航していることが要因の一つである。実際の対策には時間がかかるうえ、仮に建て替えが進んだとしても、それに伴う生活の変化を受け入れられない住民も多く、現場では「想い」と「現実」のギャップが広がっている。



取り組みが進む地域、住民との協働モデル


すべてが停滞しているわけではない。高知県では2009年から独自に行動計画を策定し、ハード・ソフト両面で対策を進めてきた。住宅の耐震化率は24年度末で9割を超え、126基の津波避難タワーを建設した。

また、高知市の浦戸湾では湾口、湾外、湾内と三段階に分けて防波堤をかさ上げし、津波の浸入を防ぐことで住民の避難時間を確保する取り組みも行われている。これらの努力は、防災対策において「行政が動く」「住民も備える」「社会全体で支える」というモデルケースとなっている。


静岡県もまた、能登半島地震を教訓に25年度予算で防災を重点項目に掲げ、新たに道路緊急対策事業費として25億円、津波関連予算には130億円を計上。歩行者空間整備や避難路の拡幅など、避難行動を現実的に支える取り組みを強化している。



今後の鍵は“全員参加型防災”


政府は、国土強靱化中期計画の中で、上下水道の耐震化を2054年度までに完了する方針を示した。しかし、それをただの「数字」として終わらせないためには、自治体、企業、地域住民、そして私たち一人ひとりが「今できること」に向き合う必要がある。

福和伸夫・名古屋大学名誉教授は「備えが進んだ分野もあるが、目標に達していない問題も多々ある。

産業界や国民がやるべき対策の後押しが足りなかった」と厳しく指摘している。


政府は今回の被害想定を踏まえ、防災対策基本計画の見直しとともに、独立した専門組織である「防災庁」の設立を視野に入れ、災害対策の抜本的な強化に乗り出す。今後の焦点は、実行力のある施策をいかに速やかに実装し、国民の行動変容へとつなげていくかにある。


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